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2つの憲法の人権原理について(1) [ネクストDの研究]

基本法(新憲法)試案の中の2種類の「人権」について(1)
                    2023.6.18 小宮
[テーマの説明]
 6月11日に神楽坂で行われた合評会の中で、「A.日本国憲法とB.ネクスト
基本法案(新憲法)の特徴の比較」というテーマで追加の発表をしました。第6の
特徴として「Aは、個人の権利としての基本的人権のみ。Bは、その他に全住民の
権利として『公共的基本権』というカテゴリーが加わる。」ことをあげ、それぞれ
の根拠づけにも違いがあると言いました。つまり、Aの基本的人権は、近代の自然
法思想を源流とする天賦人権的な考え方に基づくものであり、Bの公共的基本権は
、新たな政治体の設立における約束事に基づくものであるという違いです。
 2つの憲法、AとBの特徴の違いの説明という意味では、これで合っていると思
うのですが、Bに含まれる人権の思想の説明としては足りない点があると考えまし
た。というのは、Bには基本的人権と公共的基本権の両方がある、言い換えれば、
Aにある基本的人権はすべて引き継ぐのですが、根拠づけまで同じものを引き継い
でいいのだろうか、やはり、ネクストの政治思想に合った根拠づけにすべきではな
いか、と思ったからです。(衣笠さんの発言がヒントになりました。ありがとう。)
[手がかりになる金泰明さんの現代人権論]
 金泰明さんは、1952年生まれの在日の学者です。彼は、『マイノリティの権
利と普遍的人権概念の研究』(2004年)という著書の中で、近代から現代に至
る人権思想の中には、「X.価値的人権原理」と「Y.ルール的人権原理」という
2つの潮流が含まれていると論じました。以下に、簡単な説明を付けます。
 価値論的人権原理は、現代版の「天賦人権説」であると言えます。現代では、さ
すがに「天が与えた」といった宗教的な説明はできませんから、根拠づけは変わっ
てきますが、本質的には変わりません。人類の普遍の原理なのだ、という見方です
ね。金は以下のように2つを説明しています。
 「 価値論的人権原理とは、人間の価値を絶対的なものと想定し、絶対的
  な価値―人間や社会についての理想状態―を権利の根拠にして、価値の
  実現を理想・目標にする原理である。
   これに対して、ルール的人権原理は、合意・同意を権利の根拠にし、
  ルールによる社会秩序の形成と運営を図る原理である。まず、各人の生
  き方の自由―生の自己決定権―が相互に認められるということが主題
  とされる。そして、対等な資格で市民社会のルール関係に参加する。こ
  こからは、対等な市民による対話や議論と民主的手続きに基づいて合意
  や共通な意思が形成され、ルールが作られる社会が展望される。」
 つまり、Xのほうでは、普遍的とされる価値原理によって人権の根拠づけを行う
のに対して、Yのほうでは、対等なものとして向き合う人間同士の対話から合意が
形成され、それによって人権が根拠づけられるということになります。
Xの代表的な例としては、カントの思想、Yの代表的な例としては、ヘーゲルの思
想があげられています。この問題は、近代に始まり、現代まで続いているものであ
ることがわかります。
 それぞれの人権論について詳しいことは、今後の学習会で学んだり、話し合った
りしていきたいと思いますが、金泰明さんのこうした議論はとても参考になると思
います。私はこれを読んで、とくにルール的人権原理というものが、基本法の人権
概念を根拠づける上で、基礎となる考え方になりうると思いました。その理由は、
以下の3つです。
 1. これは、ネクスト・デモクラシーの「公共性の政治概念」の内容と基本
   的に同じ理念を含むものであること。
 2. 多文化共生の社会のもとで、誰もが納得する仕方で人権概念を確立する
   ためには、Yのやり方で合意が形成されたほうが良いと思うこと。Xは、
   西欧近代の価値原理と見られていることからも、そう言えると思います。
 3. 現代世界に生きる人々の場合は、異なる文化で育ってきた者同士でも、
   「基本的人権」のような内容についての合意は十分に可能であると思われ
   ること。
 各項の詳しいことは、学習会でお話ししようと思いますが、とりあえず、私は、
ネクスト基本法の人権論を「ルール的人権原理」の方向で考えていきたいと思っ
ていることをお伝えしておきます。

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ネクスト・デモクラシーの政体ビジョン [提言]

 昨年(2022年)10月末に、新たな民主政体のビジョンを示す著作の原稿が
完成しました。その直後に以下の説明文を作成しました。
 原稿については、今年3月に本および電子書籍として出版されることが決まり、
6月中に彩流社から刊行の予定です。
 旧原稿の一部をサブ・ブログの「ネクスト・デモクラシーの研究室」にのせま
した。内容に興味を持たれたら、本全体を読んでみてください。
 本または各章の感想をブログのコメント欄に書いていただけると、幸いです。
よろしくお願いします。[耳]
                           小宮修太郎



1. 著作の題名と目的

『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ』

 目的:①現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想と
     ビジョンを示すこと。
    ②同時にそれが、よりよき社会・経済への変革を促す拠点にもなる
     ことを伝えていくこと。

2. 全体の構成

第1部 歴史をふまえ、現状を見つめて、未来へ
     まず、ハンナ・アレントの政体変革論・評議会制論を紹介し、次に
    国民国家の問題点と自由民主主義政体の来歴を述べ、最後に「民主主
    義の危機・衰退」の因果関係を論じます。
第2部 ネクスト・デモクラシーの思想と構想
     政体の基礎となる政治思想を述べ、アレントの評議会思想を説明し、
    結合すべきローカル・デモクラシー、差異の政治(民族差別などの問
    題)、経済の民主化などの諸側面を論じていきます。
第3部 新しい民主政体のビジョン
    第2部の考察をもとにして作り上げた、あるべき民主政体の具体的な
   ビジョンを提示します。その政体の基本法となる憲法試案も書きました。
   最後に、新政体の基本的特徴と歴史的意義を述べて、まとめとしました。

3. 各種のポイントの説明

① アレントの変革論との関係
 今回の著作は、ハンナ・アレントの変革論から出発するというスタイルをと
りました。それは、アレントの著作からヒントをもらい、評議会制を1つの軸
にしようと思ったからですが、付け加えた部分も多いので、全体としてはだい
ぶ違ったものになっています。特にアレントは、政治は政治、社会・経済の問
題は別の領域と峻別してしまうのですが、その点は大きく変えました。

② 評議会制を軸に・・と言う場合、その性格が一時的な革命の機関なのか、
平時の政体なのかを明確にしておくべきですね。アレントの著作や発言は、そ
の点がよく意識されていない感じです。私は平時の政体として書きました。

③ もう1つ大事な点は、平時の政体であっても、評議員になろうと立候補し
てくる人たちの質は現在の政党政治・地方自治とは大きく変わっていくだろう
と予想されることです。保守も右翼も参加するでしょうけど、よりよき社会へ
の変革に前向きな人々の割合が増え、その人たちがヘゲモニーを握れるだろう
な、と。

④ 全体としてですが、このビジョンはすべて、民主化革命やそれに準ずるよ
うな政治的大変動の後に実現されるべきものとして考えたものであり、それら
がもたらすであろう状況・政治的力関係の変化を前提にしています。

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となりの空き地に工場が・・住民としての初期対応 [日誌]

3月18日

[ここまでの経過]
 問題の始まりは、2年前、2021年のことです。我が家のとなりにあった、紙製品(文房具など)の印刷工場が閉鎖することになり、7か月にわたって解体工事と土壌改良工事が行われました。工事開始に先立って、その工場の会社、土地売却先の会社、解体工事の会社、土壌改良の会社の4社との間に「工事に関する協定」を結び、騒音や振動をある程度おさえさせる努力をしました。かなりの音量、振動に悩まされた時期もありましたが、まあ何とか我慢して乗り切れたという感じです。
 22年の2月にすべてが終わり、広い空き地が残されました。春になるとじょじょに雑草が増えてきて、一面がやわらかい緑におおわれていきました。なつかしさも感じるような、のどかな風景で、好きでした。
 売却先の会社が建てるのは本社ビルと聞いていました。ところが・・2月に背広姿の男性たち、7,8人がとつぜん玄関先に来て、「工場を建てます。よろしく・・」と言うのです。寝耳に水とはこのこと、前の会社に嘘をつかれた、と感じました。意図的に隠していたのかもしれないと・・。

来る会社に対して、住民への説明会と今ある工場の見学を要求したら、3月8日に開かれることになりました。

[第1回説明会の様子]
以下の部分は、友人たちへのメーリングリストに投稿したものです。
******************************

春が近い感じですね。梅の花もきれいに咲いています。。

しかし、地球の西側では戦争に加えて、トルコとシリアの大地震。これは、人災の面も大きいようで、ひどい話だと思います。

世の中のことを憂えていたら、身近な所でも、一つの問題が発生してきました。小さいことですが。

問題というのは、隣の空き地の利用の仕方です。解体工事の時点では、間接的にですが、本社ビルが来るという話を聞いていたのに、最近になって、工場を作ります、よろしく、と言ってきました。
それならば、と思い、説明会と今の工場の見学会を要求しました。その工場は、隣の町にあり、焼き肉の材料となるホルモンなどを加工し、飲食店に販売するのが主な仕事です。

説明会の日程が一方的に、平日の夕方と決められ、どれだけ集まるのかと心配しましたが、15人くらい参加しました。平均年齢は、かなり高かったです。
ふだん会ったことのない人たちが多かったので、説明会でのみんなの行動は予想できなかったのですが、始まると、次から次へと発言が出て、住民運動のさなかのような雰囲気になりました。特に、近くの団地に住んでいるという、30代と思われる女性がどんどん発言するので、活気が倍加していました。皆さん、環境への影響が心配だったようで。
事前に話し合った人達は、二つの家族だけだったので、打ち合わせは無しでこうなったのが意外でもあり、うれしかったです。
建設会社がまだ決まっていなかったので、建設中の問題は次回の説明会で話し合うことになっています。
建設期間は、約1年2か月かかるとのこと。今年は、また我慢の日々になりそうです。


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朴沙羅『家(チベ)の歴史を書く』を読んで [歴史]

朴沙羅さんの『家(チベ)の歴史を書く』を読んで
                          小宮修太郎
2月3日
 在日三世の社会学研究者・朴沙羅さんが書いた『家(チベ)の歴史を書く』
(ちくま文庫)を今朝、読み終えた。とても印象に残る本だったので、読後感
を書いてみようと思う。
 この本は、韓国・済州島から日本に移住した在日二世たち(伯父2人、伯
母2人)へのインタビュー調査をもとにして書かれたものである。焦点は、
こうした属性を持った各個人の生活史であり、家族の歴史であるのだが、背
景を説明する中で済州島の歴史や特徴もリアルに浮かび上がってくるものに
なっている。
 インタビューのやりとりは、姪と伯父・伯母という関係の近さもあって、
自然体そのものであり、話し手の語り口、息づかい、人柄までもが生き生き
と伝わってくる感じがする。時には断片的となり、脈絡も分かりにくくなる
ような話し手たちの語りを分析し、読み取って行く著者の手際はあざやかな
ものである。「あとがき」の筆者・斉藤真理子さんも、この点に触れて次の
ように書いている。
  「でも、とっちらかって見える一語一語を踏みしめるように読んでいく
   と、整った文章で読むより、ことの経緯がどくどくと脈打ちながらつ
   たわってくる。この部分の言葉の練り上げはおそらく著者の厳密な見
   きわめが働いているのだと思う」
 背景、各人の足跡を調べるために島を訪ね歩く著者のエッセイ風の話も味
わい深いものである。その文章からは、在日三世として島の歴史や人々の当
時の暮らしぶり、境遇などに向き合う著者の思い、感情がリアルに伝わって
くる。また、エッセイに漂うユーモラスな雰囲気は、親しみやすく、魅力的
でもある。
 そういう面白さもあるのだが、インタビュー内容に含まれる歴史的事件の
話は暗く、悲惨なものである。日本社会に根強い民族差別の話も重たい現実
として伝わってくるものがあった。
 とくに、済州島民の戦後最大の悲劇である「四・三事件」(単独選挙実施
をめぐる左右の対立から、多数の島民が虐殺された事件)の部分を読んでい
る時には、その暗黒の闇の深さを感じる一方、日本人の読者として、日本と
いう国の歴史的責任も感じさせられた。これほどに鋭い左右の対立、民族の
分断がなぜ生じたかと言えば、日本の植民地支配への抵抗運動の中に生まれ
たイデオロギーの分岐によるものだったからである。これが38度線を境と
する南北の分断にもつながっていったことを考えると、日本側の歴史的責任
はきわめて大きいことがわかる。
 いろいろなことを思いつつ読み進めたが、最後に浮かんだ感想は、この本
を読んだことで済州島とそこから来た人々のことがもっとよくわかるように
なった、ということだった。あの島にまた行きたいという気持ちにもなった。
 朴沙羅さん、この本を書いてくれて、どうもありがとう。


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戦争を無くしていく新時代の始まり [平和論]

 1月20日のインタビュー記事を読んで、考えたことを書きます。テーマは、古谷修一
氏が言う「新たな時代の始まり」についてです。
 古谷さんは、ウクライナ侵攻がもたらしたものとして、3つの変化をあげています。
第1は、人権を中心に考える戦争観の変化。第2は、戦争観の変化にもとづく「戦争の終
わり方」の変化。第3は、これらにともなう「新たな時代」の幕開けです。
 第1の戦争観の変化というのは、古谷さんによれば、次のようなことです。
  「 第2次大戦を例に挙げると、連合国にとって何より重要な戦争犯罪は『日本が侵
   略した』ことであり、戦場での残虐行為などは侵略の結果に過ぎないと受け止めら
   れました。今回はむしろ逆です。ロシアの侵略行為以上に、ロシア軍の市民殺害へ
   の責任が、戦争の初期から問われました。」
  「 つまり、『人権』を主体として戦争のあり方が決められているのです。欧州の人
   々がこれほどウクライナの立場を支持する理由もここにあります。ロシア軍の行為
   を容認できない世論が、ロシアとの妥協を許さないのです」
 そして、その変化の大きな要因は、SNS発信を起点として戦争被害の映像が世界に流
れ、可視化されたことだと述べています。
 ここから、「人道問題なので簡単には妥協できないし、落としどころも見つけにくい」
ために、戦争の終わらせ方の変化も生まれているというのですが、私は特に第3の変化に
注目しました。
   「 人権への価値観が今以上に共有され、市民同士の連帯感が生まれる世界・・・
    新たな世界に向けた枠組みやルールをつくらなければならない。多くの人が、そ
    う思い始めているように感じます」
 要約すれば、ウクライナ問題の大きな衝撃によって世界中の人々の平和に関する意識も
変わり、国際機関の仕組みやルールもこの方向に変わっていくだろうという主張ですね。
実際にそうした変化が起きていくのであれば、歓迎したいと思います。
 しかし、私はさらに一歩を進めて、新しい時代を「もっと根本的な変化の可能性が開け
つつある時代」と捉えたいと思います。言い換えれば、「戦争という野蛮な行為がなくな
っていく時代」の始まりと捉えたいのです。ここからは、その考えを展開していきます。
 私の場合も、第1の変化は確かにおきました。重大な被害に苦しむ人々の映像を見て、
戦争は犯罪であるということを繰り返し思ったからです。同時に他の変化も・・・私の場
合は、安全保障に関する考えが大きく変わりました。それまでは、護憲と軍縮という路線
にとどまっていて、ある程度の抑止力の保持を肯定する立場だったのですが、ウクライナ
とロシアの戦争を見て、軍事的な抑止力では戦争は防げないと思うようになったのです。
同時に、戦争という行為自体が非人道的なものであり、自衛の戦争を含めて、すべての戦
争をなくしていかねばならない、と思うようになりました。
 私だけではなく、ウクライナ侵攻に反対する人々の中に、戦争そのものを否定する意味
で「早く終わらせたい」という思いも強くあったと思われます。多くの人が心情的にウク
ライナを応援しつつ、民衆の苦しみを終わらせるための早期終結を待ち望むという、いわ
ば「支援」と「反戦」のジレンマを味わってきたはずです。
 私は、上記の考え方の変化から、日本の安全保障については、非武装中立の路線が正し
い選択であると思うようになりました。また、現実的でもあると思っています。世界の他
の地域についても、今すぐには無理であるにしても、この方向へ向かって努力していくべ
きだと考えます。「新たな枠組みとルール」にもとづく国際秩序も、この歩みを促進して
いく性質のものにすべきです。抑止力を互いに低減していく、信頼関係にもとづく国際秩
序にしなければ、世界はまたしても悲惨な状況に陥っていくことになるからです。
 ウクライナ侵攻が世界に与えた大きなインパクトを考えれば、戦争の無い世界をめざす
変化が始まり、力を得ていく可能性は十分にあります。
 そのような意味で、私は、古谷氏の「新たな時代」というものの意味内容を「戦争とい
う野蛮な手段を無くしていく時代の始まり」に置きかえて、今後その共有化を図っていき
たいと思うのです。
                            以上

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(ウクライナ関連)戦争犯罪の追及 なぜ活発に? [平和論]

インタビュー記事の紹介
                      2023.1.28 小宮
 1月下旬のある日、届いた夕刊のページをめくっていたら、ウクライナ
関連のインタビューが目に入りました。ざっと目を通すと、私が昨年春か
ら抱くようになった、ある考えを含んだものであることがわかり、内容に
惹きつけられていきました。
 その考えとインタビュー内容についての感想は、別の文章にまとめて書
こうと思います。ここでは、資料提供を目的として、このインタビューを
多少縮めて紹介します。
 読んでくれた皆さんの感想も、もちろん歓迎します。
******************************
「戦争犯罪の追及 なぜ活発に」朝日新聞(1月20日・夕刊8面)
語り手:古谷修一(早大教授)
インタビュアー:国末憲人

(前書き) ウクライナでのロシア軍の戦争犯罪を追及する動きが
早くも本格化している。国際世論の強い関心がその営みを支える。
なぜ取り組みが活発なのか。国連の自由権規約委員会でロシアの審
査に加わった、国際人道法の専門家・古谷修一さん(64)にジュネー
ブで尋ねた。
(以下は、記事の中でとくに注目した部分の抜書き)
戦地の映像が世界へ
 ウクライナ情勢は今や、国際法学者らにとっても最大の課題だ。
その中で今回注目を集めたのが、国際刑事裁判所(ICC)の素早い
動きだと言う。(中略)この違いの背景には、戦争観の根本的な変化
があると、古谷さんは考える。
 「第2次大戦を例に挙げると、連合国にとって何より重要な戦争
犯罪は『日本が侵略した』ことであり、戦場での残虐行為などは侵略
の結果に過ぎないと受け止められました。今回はむしろ逆です。ロシ
アの侵略行為以上に、ロシア軍の市民殺害への責任が、戦争の初期か
ら問われました」
 「つまり、『人権』を主体として戦争のあり方が決められているの
です。欧州の人々がこれほどウクライナの立場を支持する理由もこ
こにあります。ロシア軍の行為を容認できない世論が、ロシアとの妥
協を許さないのです」
 では、なぜ世論がこれほど、被害者の人権に関心を持つようになっ
たのか。大きな要因は、SNSの急速な発達によって市民のスマホ
映像が世界に流れ、現場が可視化されたことだと、古谷さんは説明す
る。
 「ミサイルを受けて崩れたアパートの様子も、亡くなった人びとの
遺体も、実際に見える。人々はその映像から『自分のところにミサイ
ルが落ちたら』と考える。戦争を、国と国との戦いという抽象的なレ
ベルではなく、もっと身近なものとして受け止めるようになったの
です」
 日本でもウクライナへの関心は依然高い。「具体的な人の情報が入
るからだと思います。遠い国であっても、子供が殺された、家族が殺
されたことに対しては、同じ人間だから同情を感じますよね」
終わり方まで変わる
ただ、変わるのは、戦争のイメージだけではないようだ。「実は、
戦争の終り方も変わると思います」
 「昔だったら、戦争には落としどころがありました。首脳同士が『領
土はここまで』などと交渉したかもしれません。でも、今回は誰もプ
ーチン大統領と交渉できません。プーチン氏はロシアの指導者であ
るとともに、重大な戦争犯罪人。『戦争犯罪人と交渉するのか』と問
われる」
 古谷さんはこれを「正義と平和との相克」と呼ぶ。これまでは、清
濁併せのんで妥協することで戦争は終わり、「平和」が実現した。し
かし、正義に妥協の余地がない。妥協は、犯罪者との交渉を意味する
からだ。
戦争をやめられないとすると、どうすればいいのか。
「そこが問題です。戦争は、永遠には続けられません。どう譲歩し
てどう終わらせるのかと考えながら進めるのが、従来の戦争のやり
方でした。でも、戦争が『犯罪』と化した、あるいは戦争が『人権問
題』と化した世界では、妥協が難しい。それを世論が許さないからで
す」
「クラウゼビッツの理論を持ち出すまでもなく、戦争はかって、政
治の道具でした。政治的妥協を引き出すための方法の一つだった。今
は、そのようなものではない。明確な人道問題なので、簡単には妥協
できないし、落としどころも見つけにくい」
「それは、戦争が国レベルの関係ではなく、人間関係のレベルで語
られるようになったとも言えます。『戦争の犯罪化』は、つまりは『戦
争の個人化』です。個人の話として議論されるために、国家の話とし
て妥協するのは難しくなったのでしょう。
市民の連帯感に期待
 一方で、こうした傾向は、新たな時代の幕開けを意味するかもし
れないという。一例は、ウクライナ侵攻に関して昨年3~4月、IC
Cに捜査を付託した国が、日本を含めて43カ国に及んだことだ。
 「ウクライナを巡る国際裁判は、ウクライナの利益にとどまらず、
国際社会全体の利益と位置づけられている。これには、世界が何か違
う時代に入りつつある予感が伴います。今回の出来事は、『冷戦後の
世界』から『さらに次の時代』に入る境目にならないでしょうか」
 ロシアがウクライナに侵攻した時、これで時代が変わると考えた
人は少なくなかった。しかし、そこで想定されたのは、軍事大国が力
にモノを言わせて好き勝手に振る舞う秩序なき時代の到来だった。
ウクライナ側の反撃によってその恐れは遠のいたが、古谷さんの考
える新時代は、そのような恐怖の時代とは逆だ。人権を中心に据えた
希望の抱ける時代である。
 「やや理想を込めて考えると、人権への価値観が今以上に共有され、
市民同士の連帯感が生まれる世界にならないか」
 実際、ウクライナで今、人々が求めるのは「平和」だけではない。
踏みにじられた「正義」を回復したいと、多くの人が願っている。そ
の思いは実際に、世界に広く共有されつつある。
 「新たな世界に向けた枠組みやルールをつくらなければならない。
多くの人が、そう思い始めているように感じます」
******************************

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ウクライナ侵攻の原因について [平和論]

 2023年1月3日、同級生たちのメーリング・リストに送信したメールの中で、
以下のように論じました。同級生同士なので、吉成修太郎と記名しています。

*************************************
 ウクライナ侵攻について、私は以下のように見ています。
 主な歴史的原因は、冷戦終結後のロシアの経済的混乱・落ち込み・苦しみがプーチ
ンという危険な思想の持ち主を大統領として登場させたことにあります。これは、第
一次大戦後のドイツがたどった道と似ていますね。
 そのプーチンは、豊富なエネルギー資源を利用してロシア経済の立て直しを実現す
る一方、高い支持率を背景に軍事的にも強いロシアの復活を目ざしていきました。そ
の背景には、彼の強烈なナショナリズム、愛国思想があります。ロシア民族の誇
り・・これも、ヒトラーと共通していますね。
 彼は大統領就任後、いろいろな地域で軍事行動を起こしてきましたが、その延長線
上にウクライナ侵攻もあります。なぜ、この時期にウクライナか・・これは、プーチ
ンの年齢を考え、元気なうちにというのが、決定の理由だったようです。
 なぜ、ウクライナかと言えば、NATO陣営と対峙する上で、ウクライナは是非と
もロシア寄りの政権が支配する国であってほしいという動機があったと思います。ベ
ラルーシのような国であってほしいわけですね。そうなれば、事実上、大ロシアの復
活が実現できます。また、NATOに対する緩衝地帯にもなるので、ここは是非とも
欲しいと思っていたでしょう。当初は東部のロシア系住民を守るため、とか言って、
正当化していましたが、ゼレンスキー政権の打倒と傀儡政権の樹立が目的であったこ
とは明らかです。
 プーチンのNATOに対する恐怖心は非常に強いようです。被害妄想とも思えるく
らいに・・。ところが、それにもとづく行動が、逆にNATOの拡大を招いてしまっ
ているのだから、馬鹿なことをしているなあと思いますが。
 アメリカの責任もありますね。直前のバイデンの言動が抑止効果を失わせたという
こと、これも大きかったでしょう。さらに歴史をふりかえると、イラクなどでのアメ
リカのやり方を見て、軍事侵攻による政権のすげ替えをやってもいいんだとプーチン
が思うようになったという話もあります。
 ウクライナの人々の思いは、どうなのか。これも歴史をふりかえって、理解すべき
だと思います。長い話になるので、ここでは文献紹介にとどめておきます。
  黒川祐次『物語 ウクライナの歴史』(中公新書)が古代から現代までを
よく説明してくれているので、おすすめです。
                     吉成修太郎

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[食文化メモ*1]福島の味「そぎ漬け」の作り方 [食文化メモ]

 11月6日(日)
思い出の味①: 「そぎ漬け」

 みなさんは、大根の「そぎ漬け」を食べたことがありますか。ご存じない方が多いと思うので、ご紹介しますね。
 タイトルに福島の味と書きましたが、地域的にどんな広がりになっているかは、わかりません。茨城・栃木にもあるかな・・。東京生まれの人は知らないようです。
 生干しの大根だけを漬けたもので、沢庵ともいぶりがっことも異なる、類例のない味が楽しめる食品です。失うには惜しい地方食文化の一つだと思いますので、きちんとお伝えしたいと思います。

1. 作り方のアウトライン
① 大根を洗い、皮付きのまま「そぎ切り」にして、天日で干す。
② 同時に、葉も干しておく。
③ 大根と刻んだ葉を混ぜ、ごりごりと塩でもみ、重しをのせて5日くらい漬け込む。
* 大根は青首ではなく、「白秋」という品種が合う。

2. より詳しい説明
1) 包丁は、出刃包丁のような厚みのあるものがいい。ざっくりと切れるからです。
2) 1個の大きさは一口サイズ。普通サイズの小カブを2つに切ったぐらいのイメージです。
3) 干す時間は、半日で十分です。よく日が当たるように・・。
4) 塩は、天候の暖かさによるそうです。暖かい時は多めに・・。
5) 平均的には、大根の重さの5%ぐらいです。
6) 漬ける時、水は入れません。大根から水分が出るからです。
7) 合う品種を見つけるのが難しいかもしれません。全体が白くて、辛味が強くなければ、だいたい合うんじゃないでしょうか。
8)最も合う品種は、「白秋」です。真っ白で、しゅっと伸びた、きれいな大根ですよ。漬物が盛んな地方では、季節になると、店頭に並びます。
                                   以上
*質問があったら、下記にどうぞ。上手にできた時も、ご報告ください。
      komiya9402@gmail.com


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[研究日誌*1]スピノザ研究、始めよう。 [日誌]

 2022年11月4日


 今日も秋晴れの一日。爽快な気分で過ごしている。
 一昨日、3年ぶりに、大学時代からの友人T君に会った。目的は未発表の著作『ネクスト・デモクラシー』の普及のさせ方について相談するため。駅で会い、一緒に歩き出すなり、「すごいのを書いたね」と原稿をほめてくれた。「文章もとてもいいよ」とのこと。飲食しながらの対話で、内容にも賛成してくれているのがわかった。こうした一連の評価の言葉を聞き、とても安心した気持ちになった。彼は政治学への造詣も深く、同じ大学院にいたことで、研究能力の高さもわかっていたからだ。「このテーマで研究会を作るなら、参加するよ」とも言ってくれた。心強く感じた。
 この話が一段落つくと、彼は、「ところで、スピノザは、読んだことある?」と聞いてきた。おお、スピノザ!と思いながら、高校時代の読書経験を思い出し、「読んでいると、世界の見え方が変わってくるような感じがした。さわやかな気分に包まれ、ふしぎな気持ちになった」と言うと、うなずきながら「ドゥルーズも同じようなことを書いている」と言い、一冊の本を紹介してくれた。さらに、「スピノザは、政治学の面でも重要だと思う。人間のとらえ方が深いので」と注目する理由や、その人生のアウトラインを語り始めた。この話を聞き、自分もあらためてスピノザを読んでみよう、研究してみようという気持ちになった。
 今後につながるかもしれない一日だった。
****************************
G・ドゥルーズ著/鈴木雅大訳
 『スピノザ 実践の哲学』(平凡社ライブラリー2002年)
(「序」からの抜粋)
「―― どうしておまえがスピノザを読む気になったのか、一つそのわけから聞くとしよう。スピノザもユダヤ人だったからかね。
―― いえ閣下、そうではありません。あの本に出くわしたときには、ユダヤ人だということさえ知りませんでした。それに、伝記をお読みになっていればおわかりでしょうが、シナゴーグではスピノザは嫌われ者も同然です。あの本は近くの町のくず屋で見つけて1コペックで買ったのですが、そのときは、あんなに稼ぐのに苦労した金をむだづかいしてしまったと半分後悔していました。しばらくたってから、ぱらぱら読んでみているうちに、急にまるでつむじ風にでも吹かれたようになって、そのまま読み続けてしまったのです。さっきも申しましたように、私には全部理解できたわけではありません。でも、あんな思想にぶつかったら、誰だって魔女のほうきに乗っかったような気になります。あれを読んでからの私は、もうそれまでの私とは同じ人間ではありませんでした……。(中略)
 スピノザは自分を自由な人間にしたかったということではないかと思います。できるかぎり自由に――といってもスピノザの哲学でいう〈自由〉です。わかっていただけるかと思いますが――それも、とことん考え抜いて、すべてのことを結び合わせて、そうしようとしたのだと。……
            マラマッド『修理屋』(1969年)  」
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 ◎「自分を自由な人間にしたかった…できるかぎり自由に」・・という表現に強く惹かれた。ドゥルーズのスピノザ論も読んでみようと思う。

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