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2つの憲法の人権原理について(1) [ネクストDの研究]

基本法(新憲法)試案の中の2種類の「人権」について(1)
                    2023.6.18 小宮
[テーマの説明]
 6月11日に神楽坂で行われた合評会の中で、「A.日本国憲法とB.ネクスト
基本法案(新憲法)の特徴の比較」というテーマで追加の発表をしました。第6の
特徴として「Aは、個人の権利としての基本的人権のみ。Bは、その他に全住民の
権利として『公共的基本権』というカテゴリーが加わる。」ことをあげ、それぞれ
の根拠づけにも違いがあると言いました。つまり、Aの基本的人権は、近代の自然
法思想を源流とする天賦人権的な考え方に基づくものであり、Bの公共的基本権は
、新たな政治体の設立における約束事に基づくものであるという違いです。
 2つの憲法、AとBの特徴の違いの説明という意味では、これで合っていると思
うのですが、Bに含まれる人権の思想の説明としては足りない点があると考えまし
た。というのは、Bには基本的人権と公共的基本権の両方がある、言い換えれば、
Aにある基本的人権はすべて引き継ぐのですが、根拠づけまで同じものを引き継い
でいいのだろうか、やはり、ネクストの政治思想に合った根拠づけにすべきではな
いか、と思ったからです。(衣笠さんの発言がヒントになりました。ありがとう。)
[手がかりになる金泰明さんの現代人権論]
 金泰明さんは、1952年生まれの在日の学者です。彼は、『マイノリティの権
利と普遍的人権概念の研究』(2004年)という著書の中で、近代から現代に至
る人権思想の中には、「X.価値的人権原理」と「Y.ルール的人権原理」という
2つの潮流が含まれていると論じました。以下に、簡単な説明を付けます。
 価値論的人権原理は、現代版の「天賦人権説」であると言えます。現代では、さ
すがに「天が与えた」といった宗教的な説明はできませんから、根拠づけは変わっ
てきますが、本質的には変わりません。人類の普遍の原理なのだ、という見方です
ね。金は以下のように2つを説明しています。
 「 価値論的人権原理とは、人間の価値を絶対的なものと想定し、絶対的
  な価値―人間や社会についての理想状態―を権利の根拠にして、価値の
  実現を理想・目標にする原理である。
   これに対して、ルール的人権原理は、合意・同意を権利の根拠にし、
  ルールによる社会秩序の形成と運営を図る原理である。まず、各人の生
  き方の自由―生の自己決定権―が相互に認められるということが主題
  とされる。そして、対等な資格で市民社会のルール関係に参加する。こ
  こからは、対等な市民による対話や議論と民主的手続きに基づいて合意
  や共通な意思が形成され、ルールが作られる社会が展望される。」
 つまり、Xのほうでは、普遍的とされる価値原理によって人権の根拠づけを行う
のに対して、Yのほうでは、対等なものとして向き合う人間同士の対話から合意が
形成され、それによって人権が根拠づけられるということになります。
Xの代表的な例としては、カントの思想、Yの代表的な例としては、ヘーゲルの思
想があげられています。この問題は、近代に始まり、現代まで続いているものであ
ることがわかります。
 それぞれの人権論について詳しいことは、今後の学習会で学んだり、話し合った
りしていきたいと思いますが、金泰明さんのこうした議論はとても参考になると思
います。私はこれを読んで、とくにルール的人権原理というものが、基本法の人権
概念を根拠づける上で、基礎となる考え方になりうると思いました。その理由は、
以下の3つです。
 1. これは、ネクスト・デモクラシーの「公共性の政治概念」の内容と基本
   的に同じ理念を含むものであること。
 2. 多文化共生の社会のもとで、誰もが納得する仕方で人権概念を確立する
   ためには、Yのやり方で合意が形成されたほうが良いと思うこと。Xは、
   西欧近代の価値原理と見られていることからも、そう言えると思います。
 3. 現代世界に生きる人々の場合は、異なる文化で育ってきた者同士でも、
   「基本的人権」のような内容についての合意は十分に可能であると思われ
   ること。
 各項の詳しいことは、学習会でお話ししようと思いますが、とりあえず、私は、
ネクスト基本法の人権論を「ルール的人権原理」の方向で考えていきたいと思っ
ていることをお伝えしておきます。

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ネクスト・デモクラシーの政体ビジョン [提言]

 昨年(2022年)10月末に、新たな民主政体のビジョンを示す著作の原稿が
完成しました。その直後に以下の説明文を作成しました。
 原稿については、今年3月に本および電子書籍として出版されることが決まり、
6月中に彩流社から刊行の予定です。
 旧原稿の一部をサブ・ブログの「ネクスト・デモクラシーの研究室」にのせま
した。内容に興味を持たれたら、本全体を読んでみてください。
 本または各章の感想をブログのコメント欄に書いていただけると、幸いです。
よろしくお願いします。[耳]
                           小宮修太郎



1. 著作の題名と目的

『ネクスト・デモクラシーの構想 ―新たな民主政体へ』

 目的:①現在の自由民主主義政体に代わるべき、新たな民主政体の思想と
     ビジョンを示すこと。
    ②同時にそれが、よりよき社会・経済への変革を促す拠点にもなる
     ことを伝えていくこと。

2. 全体の構成

第1部 歴史をふまえ、現状を見つめて、未来へ
     まず、ハンナ・アレントの政体変革論・評議会制論を紹介し、次に
    国民国家の問題点と自由民主主義政体の来歴を述べ、最後に「民主主
    義の危機・衰退」の因果関係を論じます。
第2部 ネクスト・デモクラシーの思想と構想
     政体の基礎となる政治思想を述べ、アレントの評議会思想を説明し、
    結合すべきローカル・デモクラシー、差異の政治(民族差別などの問
    題)、経済の民主化などの諸側面を論じていきます。
第3部 新しい民主政体のビジョン
    第2部の考察をもとにして作り上げた、あるべき民主政体の具体的な
   ビジョンを提示します。その政体の基本法となる憲法試案も書きました。
   最後に、新政体の基本的特徴と歴史的意義を述べて、まとめとしました。

3. 各種のポイントの説明

① アレントの変革論との関係
 今回の著作は、ハンナ・アレントの変革論から出発するというスタイルをと
りました。それは、アレントの著作からヒントをもらい、評議会制を1つの軸
にしようと思ったからですが、付け加えた部分も多いので、全体としてはだい
ぶ違ったものになっています。特にアレントは、政治は政治、社会・経済の問
題は別の領域と峻別してしまうのですが、その点は大きく変えました。

② 評議会制を軸に・・と言う場合、その性格が一時的な革命の機関なのか、
平時の政体なのかを明確にしておくべきですね。アレントの著作や発言は、そ
の点がよく意識されていない感じです。私は平時の政体として書きました。

③ もう1つ大事な点は、平時の政体であっても、評議員になろうと立候補し
てくる人たちの質は現在の政党政治・地方自治とは大きく変わっていくだろう
と予想されることです。保守も右翼も参加するでしょうけど、よりよき社会へ
の変革に前向きな人々の割合が増え、その人たちがヘゲモニーを握れるだろう
な、と。

④ 全体としてですが、このビジョンはすべて、民主化革命やそれに準ずるよ
うな政治的大変動の後に実現されるべきものとして考えたものであり、それら
がもたらすであろう状況・政治的力関係の変化を前提にしています。

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