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朴沙羅『家(チベ)の歴史を書く』を読んで [歴史]

朴沙羅さんの『家(チベ)の歴史を書く』を読んで
                          小宮修太郎
2月3日
 在日三世の社会学研究者・朴沙羅さんが書いた『家(チベ)の歴史を書く』
(ちくま文庫)を今朝、読み終えた。とても印象に残る本だったので、読後感
を書いてみようと思う。
 この本は、韓国・済州島から日本に移住した在日二世たち(伯父2人、伯
母2人)へのインタビュー調査をもとにして書かれたものである。焦点は、
こうした属性を持った各個人の生活史であり、家族の歴史であるのだが、背
景を説明する中で済州島の歴史や特徴もリアルに浮かび上がってくるものに
なっている。
 インタビューのやりとりは、姪と伯父・伯母という関係の近さもあって、
自然体そのものであり、話し手の語り口、息づかい、人柄までもが生き生き
と伝わってくる感じがする。時には断片的となり、脈絡も分かりにくくなる
ような話し手たちの語りを分析し、読み取って行く著者の手際はあざやかな
ものである。「あとがき」の筆者・斉藤真理子さんも、この点に触れて次の
ように書いている。
  「でも、とっちらかって見える一語一語を踏みしめるように読んでいく
   と、整った文章で読むより、ことの経緯がどくどくと脈打ちながらつ
   たわってくる。この部分の言葉の練り上げはおそらく著者の厳密な見
   きわめが働いているのだと思う」
 背景、各人の足跡を調べるために島を訪ね歩く著者のエッセイ風の話も味
わい深いものである。その文章からは、在日三世として島の歴史や人々の当
時の暮らしぶり、境遇などに向き合う著者の思い、感情がリアルに伝わって
くる。また、エッセイに漂うユーモラスな雰囲気は、親しみやすく、魅力的
でもある。
 そういう面白さもあるのだが、インタビュー内容に含まれる歴史的事件の
話は暗く、悲惨なものである。日本社会に根強い民族差別の話も重たい現実
として伝わってくるものがあった。
 とくに、済州島民の戦後最大の悲劇である「四・三事件」(単独選挙実施
をめぐる左右の対立から、多数の島民が虐殺された事件)の部分を読んでい
る時には、その暗黒の闇の深さを感じる一方、日本人の読者として、日本と
いう国の歴史的責任も感じさせられた。これほどに鋭い左右の対立、民族の
分断がなぜ生じたかと言えば、日本の植民地支配への抵抗運動の中に生まれ
たイデオロギーの分岐によるものだったからである。これが38度線を境と
する南北の分断にもつながっていったことを考えると、日本側の歴史的責任
はきわめて大きいことがわかる。
 いろいろなことを思いつつ読み進めたが、最後に浮かんだ感想は、この本
を読んだことで済州島とそこから来た人々のことがもっとよくわかるように
なった、ということだった。あの島にまた行きたいという気持ちにもなった。
 朴沙羅さん、この本を書いてくれて、どうもありがとう。


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